擬態とは、態(ありさま、様子や姿)を擬する(似せる)こと、という表現である。
攻撃や自衛などのために、からだの色や形などを、周囲の物や動物に似せることを指す。
擬態している生物を擬態者、またはミミック、模倣される対象をモデルと呼ぶ。(wikipediaより抜粋)
この擬態者(ミミック)という言葉を冠した生物がいる。ミミックオクトパスだ。
学名の
Thaumoctopus mimicus にもミミックという文字が入っている。
ミミックオクトパスはマダコ科に属するタコで、太平洋からインド洋にかけて分布している。
腕を広げた大きさは50cm程度で、シルトっぽい砂地に巣穴を持って暮らしている。
驚くべきはその変身(擬態)能力だ。
色んなものに姿を似せる事ができる。そのレパートリーは40種類とも言われている。
腕を大きく広げ、波打たせる姿はイソギンチャクやウミシダへの擬態とされている。
イソギンチャクは魚を食べるので、擬態をする事により魚が寄ってこないという自衛の効果がある。
また、ウミシダは周囲の生物に危害を加えないので、魚が警戒心を持たずに寄ってくる。そこを一気に攻撃する事もできる。
右の写真はどちらかというとウミシダに擬態しているように見える。
ミミックオクトパスは8本の腕を持つが、そのうちの3本を隠して5本の腕を広げるとヒトデのように見える。
ヒトデの多くはサポニンという抗菌性・微毒性のある物質を持つので他の生物に襲われにくい。
余談になるが、タコやイカは頭足類というグループに属する。頭から足が生えているという意味だが、8本の長いものは足と呼ばず腕と呼ぶ。
正しくは「わん」と読むが「うで」と言っても問題ではない。
巣穴に逃げ込む場合、1本、ないしは2本の腕を巣穴の外に出したままじっとしている場合がある。
これはウミヘビへの擬態とされている。
ウミヘビはハブよりも強い毒を持つので、他の捕食者は寄ってこない。
移動する場合は全ての腕を一つにまとめて平べったくなる。
これはヒラメやカレイへの擬態だ。
水の抵抗を無くし、スルスルと滑るように泳ぐさまはヒラメそのものだ。
体を平たくすることで水の抵抗も少なくなり速く泳ぐこともできるし、目立たず移動することもできる。
普段のミミックオクトパスは巣穴に居る場合が多いが、その時も色んなものに擬態している。
右の写真はシャコにそっくり。
シャコの眼やハサミ脚も上手く真似ている。
こちらは頭部を三角錐状にしてじっとしている。
この姿はトンガリホタテウミヘビに見える。
眼の部分を前に突き出し、トンガリホタテウミヘビの鼻孔の形も上手く再現している。
更に穴の中に潜り、そこから周囲をうかがう姿はカエルアマダイ(ジョーフィッシュ)に似ている。
上の写真のミミックオクトパスと、このミミックオクトパスは別個体で、それぞれ別の場所で撮影したものだが、いずれもその近くにはモデルとなるトンガリホタテウミヘビとジョーフィッシュが居た。
ミミックオクトパスは自ら好んで中層を泳ぐ事はないが、しつこく追うと腕をひらひらとさせながら泳ぐ事がある。
この姿はハナミノカサゴに似ている。
しかし、ここで疑問が残る。
本当にこれらは全て擬態なのだろうか?我々人間の目にはミミックオクトパスが擬態していたとしても見破る事は容易いし、中には擬態しても効果のないものもあるような気がする。
我々人間が面白おかしく勝手な解釈で擬態をしていると思っているだけではないのだろうか?
だが、過去に1度だけこんな事があった。
目の前に居たオニカサゴを指示棒でツンツンと突いたところ、そのオニカサゴは一瞬で大きく姿を変えた。それがミミックオクトパスだったのだ。
この時は本当にオニカサゴだと思っていた。完全に騙された。
それ以来、自分はこのミミックオクトパスの擬態というものを信じるようにしている。