おきなわ図鑑 >> 沖縄水中観察日記

Vol.7 間違った名前で呼ばれる魚たち

我々が普段使っている標準和名だが、中には、実際に決められた(あるいは予定していた)名前と違うものも存在する。
都市伝説的に語られているものもあるので一度整理してみたいと思う。
ホンソメワケベラ クリーニングをすることで知られているホンソメワケベラも本当は別の和名になるはずだった。

近似種にソメワケベラという魚が居るが、これよりも体が細い事から当初ホソソメワケベラという和名が考案されていたらしい。

考案者である京都大学の故・松原喜代松教授は、自著の「魚類の形態と検索」という本の中で新和名を提唱されたのだが、その際、誤植によって“ホソ”とすべきところが“ホン”になってしまったという。
それに気がついたか気がつかなかったかはわからないが、「魚類の形態と検索」は当時の魚類学者に最も大きな影響を与えた本だったので、結果としてホンソメワケベラが標準和名として広まってしまった。
ただし、この事実関係を証明する資料はなく、あくまで松原教授から弟子への口伝が根拠である。
アカモンガラ アカモンガラはどう見ても赤くはない。では何故アカモンガラと呼ばれているのだろうか?
注目すべきは歯だ。 口から飛び出したドラキュラのように鋭い歯は赤い色をしている。

この赤い歯から1942年に出版された「毒魚図鑑」にはアカハモンガラという名前で初登場する。

しかし、1950年に作成された宮古島の魚類リストの中で、間違ってアカモンガラと表記されてしまう。
更に、1955年に出版された「魚類の形態と検索」でもアカモンガラが使われ、ホンソメワケベラと同じ理由で標準和名として定着してしまった。
先取権という点から考えるとアカハモンガラが正しいが、今となってはどうにもならない。
コウワンテグリ コウワンテグリのタイプ産地は沖縄県浦添市の小湾(こわん)という場所だ。うちのショップから車で5分ほどの近い場所にある。

その場所に因んで最初はコワンテグリと呼ばれていたものが、後にコウワンテグリになった。

理由は諸説あるが、Okada and Ikeda, 1937により新種記載された際に、Kowan Teguriという標準和名が付された。(英語論文の為、ローマ字表記)
その後、上述の「魚類の形態と検索」においてコウワンテグリと表記されたため、そのまま広まってしまった。
Kowan はローマ字であり、“o”には長音記号が付されておらず、なおかつこの論文では沖縄本島をOkinawa Honto(“to”の“o”には長音記号が付されている)と表記している。 このことから、Kowanは“コワン”と読むべきだし、そもそもタイプ産地が小湾(こわん)であることからコワンテグリが正しい標準和名である。
なぜ「魚類の形態と検索」でコウワンテグリとなってしまったのかはわからないが、誤植ではなく、松原教授が Kowanをコウワンと読み間違えたことが原因ではないだろうか。
ネットを見ると、「本当の名前で呼ばれないなんて可愛そう」などと書いている人も居るが、 生物の名前は人間が識別する為に付けたものであって、当の魚たちは何も気にしてないのである。
また、これらの魚の名前を元の呼び名に戻すかどうかという話だが、自分は正直どちらでも良いと思う。 定着して親しまれている名前であればそのままにしておいても問題はないと思う。
ただ、その名前の由来を正しく知る事が大切だと思う。

この記事は神奈川県立生命の星・地球博物館の瀬能宏氏よりご教授頂いた情報により構成しています。ありがとうございました。


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